Interview ~ 中村梅雀【後編】

この1本で全部の音色を出したらお客さんもびっくりするでしょうし、“あのベース欲しい!”って絶対思う

 さて、こだわりの詰まったBaijaku Nakamura “BJ” modelですが、特に気に入っているポイントは?

 まず一番びっくりしたのが、美し過ぎるということ。あとバランスが良いし、弾いてみたらレスポンスもめちゃめちゃ良い! 速く、しかもパワフルに音が返ってきて、繊細なタッチもちゃんと出るし、乱暴に弾いたら乱暴さもそのまま出るんです。指でツー・フィンガーもOK、ゆっくりと静かに弾くのもOK、ジョン・エントウィッスルみたいに叩くのもOK、タッピングもハーモニクスも出まくるし、スラップもバキバキ決まる。そしてピックで弾いてみたら“ロックじゃん!”って。ロックもめちゃめちゃイケるんです。右手の腹でミュートしても気持ちよく決まるし、いわゆるクリス・スクワイア風もイケる、アンソニー・ジャクソン風のミュート・ピッキングもきれいに決まります。とにかくレスポンスとサステインが両方ともすごいです。それが乱暴に出まくるんじゃなく、ちゃんとコントロールできちゃうんですよ。
 それともう一つ、スキャロップ加工のナットもびっくりしましたね。これはこちらから注文していなかったので。“おぉっと、キター! これ、良いじゃん!”っていう。やっぱり反応が全然違うと思いました。このレスポンスの良さは、あのスキャロップ加工なんじゃないかなと思っています。ヘッドの小ささ、ネックの細さ、ナットのスキャロップ、それからブリッジの質量、ネックの角度…、色々なことが影響して、とにかく弾きやすいしレスポンスが良いし、サステインも良くコントロールがしやすいんです。
 更にすごいのは、ミックスで出しても立派な良い音が出るし、フロント・オンリーでも太い音が出る、それからリアではジャコもイケますよ、という。スラップはミックスでもフロントでもリアでもイケますし、ピックでも全部イケます。“何でもイケます”というベースです。ジャンルもオールラウンドで、ジャズはもちろん歌モノのバック、カントリーからサザン・ロックからメタル、フュージョン…何でもイケますね。

 ルックスからは想像ができないほどオールジャンルなんですね。

 そうですね。見た目やZEMAITISのイメージとしては、もっとガーンッと行ってほしいっていうのが多分みんなあるんでしょうけど(笑)。もちろんガーンっていうのも出ますしね。1ステージの中で、この1本で全部の音色を出したらお客さんもびっくりするでしょうし、“あのベース欲しい!”って絶対思う。そんなベースです。

 大絶賛していただいてありがとうございます!

 このベースを作った工場長が仰っていたんですが、“ニトロセルロース・ラッカーを塗っていて、今はそれが染み込んでいる最中の落ち着いていない状態なので、これが落ち着いてくる経年変化も楽しんでください”ということで、それもすごく楽しみだなぁと思います。

 これからまだ成長していくんですね。

 全然まだひよっこ状態のまま色々弄っているので、そこに僕の汗も加わってどういうラッカーの染み込み方になるんだろうなっていう、ちょっと恐怖もあるんですけど(笑)。でも、それがまた楽しみです。ムラになる可能性もあるんだけど、それが僕が使ってきた歴史になるんだろうなと思いますし。

 どんどん梅雀さん色に染まっていくんですね。

 響き方もどんどん変わっていくでしょうし。届いてからこれまでの間にも、随分変わってきたように思います。

 これから弾き込んでいくにつれての変化もまた楽しみですね! 気に入ってくださって、本当に嬉しいです。

 そういえば、最初に受け取った時はケースにもびっくりしました!

 ケースについても何かオーダーされたんですか?

 いや、何も言っていなかったんです。B22MT DCPが黒いケースだったので、黒だろうなって思っていたのが予想だにしない色だったので、まずそこで“うわ~、すごい…”となりました。そしてケースを開けた時の景色…もうのけ反るしかないなっていう(笑)。

 さて、インタビューの冒頭(前編)でも少し話が出ましたが、梅雀さんはRotosoundのエンドーサーも務めてくださっていますので、弦についても伺っていきたいと思います。まず、Rotosoundとの出会いを教えてください。高校生の頃から愛用されているとのことですが…。

 Rotosoundとの出会いはグレッグ・レイクなんですよ。

 あ、ジャコ・パストリアスではないんですね。

 グレッグ・レイクでした。僕のベースはポール・マッカートニーやモーリス・ギブから始まって、ジョン・ポール・ジョーンズやジャック・ブルース、ジョン・エントウィッスル辺りを経て、そこからプログレにハマったんですけど、その時にレコード屋さんで耳に入ってきて“このベースは何だ!?”となったのがグレッグ・レイクのベースの音だったんです。“何だこの音、聴いたことないな”と。ギーンギーンと鳴っているのに低音が入っている。この音は何だろうと思って、そこからグレッグ・レイクを集中して聴くようになって、彼の大ファンになっちゃって。
 ちょうどそれが高校生の時だったんですけど、高校の時に僕は初めて映画に出たんです。そして、そのギャラでベースを買って良いかと親に相談したんですよ。当時はギャラは親の管理だったので。グレッグ・レイクと同じベースが欲しいとお願いしたら母親の許しが下りまして、念願のブロック・ポジションのJBを買うことができました。で、家にあるアンプで鳴らしたんですが、グレッグ・レイクの音が出なかったんです。“あれ…? やっぱり本人が使っているアンプじゃないとダメなのかな…”と思いましたよ。そうして今度はドラマに出るようになったので、“どうしてもこのアンプが欲しい”と親に頼み込み…。どうにか僕のギャラにちょっとプラスしてもらって、そのアンプも手に入れました。そしてベースを繋いで音を出してみました。…グレッグ・レイクの音が出ませんでした。“ここまでお金を使ってもあの音が出ない…、何なの!?”となりましたよ(笑)。

 それは辛すぎますね(笑)。

 それでグレッグ・レイクのインタビューを読んだら、“俺はベースでもピアノの音を出したいんだ。そのために使っている弦がRotosoundなんだ。これでしかピアノの音が出ないんだ”ということが書いてあって。“えぇー! Rotosound弦っていうのがあるの!?”と。

 そこでRotosoundを知ったんですね…!

 それでRotosoundの弦が欲しくなり、楽器屋に頼んだんですが、その当時Rotosound弦は1セット7,800円ですよ…。“あちゃ~、どうしよう。お母さん、お願い…”みたいな(笑)。パッケージに創業者のジェームズ・ハウさんとジョン・エントウィッスルが話している写真が載っていて、“ジョン・エントウィッスルがSwing Bass 66の開発に携わったの!?”って、そこで初めて知りました。当時はゲージもあまり種類がなくて、45-105のスタンダード・ゲージしかなかったのかな? それを張って弾いてみたら“なんか他の弦と違う音がしてる~”と…。アンプを通したら“グレッグ・レイクの音がキター!”となりました(笑)。この弦だったんだ…というところからRotosoundに入ったんですよ。

 やっとそこでグレッグ・レイクの音に辿り着いたんですね。

 できるだけ弦を大切に持たせて、切れないように頑張って。さすがにもう音が…ってなったらお小遣いを貯めて次を買うっていう。そうやってRotosoundとの付き合いが始まったんです。次にクリス・スクワイアを好きになって調べたら、クリスもRotosoundを使っていて“同じじゃ~ん”って(笑)。で、大学ではジャズ・クラブに入って、そこからジャズを研究するようになりました。リターン・トゥ・フォーエヴァーが来日した時に、エレクトリックのバンドとしてテレビに出ているのを観たんですが、そこでスタンリー・クラークが見たことも聴いたこともないようなベースを弾いていて、目が釘付けになっちゃいまして。そんなスタンリー・クラークも弦はRotosoundらしいということを聞いて、“やっぱりRotosoundだよ”と思いましたよ。JBにRotosoundの弦で、フレットが足りないなんて思いながら一生懸命スタンリー・クラークを弾きましたね。
 そして、次に登場したのがジャコだったんです。レコードでウェザー・リポートの『ブラック・マーケット』を聴いて、「キャノン・ボール」で“何だこれ! この音何!?”っていう衝撃を受けました。自分のベースでやってみても同じ音が出ないし、どんなことをやっているんだろうと。同じくジャコが弾いている「バーバリー・コースト」も、何これという感じでした。すごいベースだなぁ…と。ジャコは78年に来日しているんですけど、それも観に行きましたね。その時にはすでに、弦がRotosoundだという情報も入ってきていて。彼は“Rotosoundじゃないとハーモニクスが出ないんだ”と言っていると。やっぱりRotosoundじゃんと思いました。
 もう僕にとってもRotosoundは欠かせないです。Rotosoundじゃないとあの音は出ない。Rotosoundの良いところは発音がハッキリしていてコントロールしやすく、同時に高音部が気持ち良いハーモニクスで、倍音は音楽的に気持ち良い中音域が盛り上がって、低音域もちゃんとパワフルに出るところだと思います。高音の艶とハーモニクス、中域のハリと存在感、低域の太さとパワーが備わっていて、しかもコントロールがしやすい。だから弾きやすい。途中で色々な弦に浮気もしたんですけど、結局Rotosoundに戻ってくるんです。一番は弾きやすいからだと思います。やっぱり高校生の頃からずっと使っているので、Rotosoundの指になっているのかもしれません。

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