ZEMAITIS
日本を代表する俳優の一人でありながら、ベーシストとしても活躍する中村梅雀。ZEMAITISより、彼のためにシグネチュア・モデルBaijaku Nakamura “BJ” modelが製作された。本機は非常に珍しいパールフロントのベースで、中村の希望やこだわりがふんだんに詰まったモデルである。
今回、シグネチュア・ベースの完成に際してインタビューを実施。ZEMAITISとの出会いからテレビ番組の企画で行なったZEMAITIS工場見学の裏話、そしてシグネチュア・ベースの“BJ”デザインに込められた想いを語ってもらった。
ZEMAITIS工場のクオリティ…、この凄みを知ったら世界の人は本当に驚くだろうし、日本のミュージシャン達もびっくりする
まず、ZEMAITISというブランドを知ったきっかけを教えてください。
きっかけは昔、山内テツさんが“変なベースを弾いているなぁ”と思ったのが、ZEMAITISのベースだったんです。山内テツさんは日本人でイギリスのバンドに入った、最初のベーシストじゃないですか。フリーに加入したり、ロン・ウッドと一緒にやったりしていましたよね。その時にロン・ウッドも確かZEMAITISを弾いていて。で、山内さんのベースを見た時に“あぁ、こんなベースがあるんだ。面白い、どこのかな?”と思っていたらそれがZEMAITISで、当時は“ゼマティス”と呼ばれていましたけど、彼が日本人で初めて(創業者の)トニー・ゼマイティスにベースを作ってもらった人なんだという話をその時なんとなく知りました。“ゼマティスね、ふ~ん…”と。でも、その時からすでにZEMAITISにはロックというイメージが付いていて、その後もやっぱりロック系の人が多く使っていたし、見た目からしてもロックだし。当時パールフロントはあまり見たことがなくて、専らメタルフロントの印象だったので“ロックっぽいなぁ~”と思っていました。あと、ハートのサウンドホールのZEMAITISアコースティック・ギターをアーティストが使っているのも雑誌で見て“ロックの人はこういう洒落たギターを持っているんだなぁ”と思いました。当時は実際の音は知らなかったです。
当時は主に雑誌だったり、そういったものでZEMAITISの情報を得ていたんですね。
“イギリスのアーティストが使っているロックなギター”というイメージでした。なんか痛そうだな、みたいな(笑)。痛そう、冷たそう、重たそう、みたいな見た目の印象でした。あとは、硬い音がするんだろうなっていう想像しかしていませんでした。そのうちに自分の興味が他のブランドに行っちゃったので…。僕が好きなアーティストにZEMAITISを使っている人がいなかったのもあって、ZEMAITISは意識の外に行ってしまいましたね。それから何かのタイミングで、日本で作り始めたという話がちょっと耳に入ってきまして、“あ、なんか日本の工房が関係しているのかな?”と思ったぐらいで、トニーさんが亡くなったこともあまりわかっていなくて…。イギリスのロック系からプログレを経て、ジャズに興味を持つようになってからアメリカの音楽ばかり聴くようになっちゃって。僕の好きなアメリカのアーティストでZEMAITISを普段使いする人がいなかったもので、専らクロスオーバーからフュージョン系の人が使っているベースやギターにばかり目が行っていたんですよ。
そんな中でZEMAITISと関わりを持つようになったきっかけは、僕が元々使っていた弦ブランドのRotosoundを神田商会さんが取扱うようになったことからなんです。Rotosoundの弦は高校生の頃からずっと使っていて、エンドースもさせてもらっているんですが、そこからの繋がりでZEMAITISのことをちゃんと知りました。ZEMAITISは神田商会さんが亡くなったトニー・ゼマイティスの跡を継いで作っているんだということ、しかもその経緯で(トニー・ゼマイティスの)ご遺族の許しを得たのは神田商会さんだけだったんだということを聞き、“へぇ~!”となりました(笑)。
そうして昔見たZEMAITISの記憶が蘇ったんですね。
“そうだ、ZEMAITISと言えば山内テツさんが使っていたなぁ”という記憶が蘇りました。“確かベースもあったよな…”みたいな。僕がRotosoundのエンドースで神田商会さんのお世話になることになり、(神田商会の)カタログに僕の名前と写真を載せたいという話をいただいて快諾したんですけど、その時にカタログの見本を貰ったら、ページを捲っていきなりZEMAITISのパールフロントのギターが掲載されていたんです。“うわ! 何じゃこれ!”って(笑)。“メタルフロントは知っていたけど、パールフロントって何これ!?”となりました。
パールフロントはZEMAITISを代表するトップ・エンド・モデルですからね。
“カッコ良すぎ~!”って。オープンプライスっていくらなんだろう、みたいな(笑)。慌てて調べてみたら、“おぉっと…初っ端からこの値段か~”となる値段でした(笑)。パールフロントはギターしか作っていないんだなと思って色々見ていたら、メタルフロントならベースもあるんだなと。そうこう調べたりしているうちに、YouTubeでZEMAITISの動画がよく登場するようになったんです。それでNAMMショーの動画を見ていたら、パールフロントのベースが出てきて驚きました。今は(パールフロントのベースは)ないのにって。
過去にショー・モデルとして1本だけパールフロントのベースがありました。
そのベースは試奏されず、動画内で映るだけで終わっちゃったんです。それでもっとZEMAITISのベースはないのかなぁと思って、色々と試奏動画も含めて見てみたんですけど、“あ、なるほど。なんか普通な音がしているぞ”と。ギターも色々な試奏動画を見たんですが、色んな音が出ていると思いました。ZEMAITISは普通のギターとしても優れているんだということを、そうして初めて知ったんです。それから僕が実際に本社に訪問する前に、YouTubeで神田商会さんに関する動画を見たりして、(神田商会に)貴重なZEMAITISが保存されていることや日本で作っていることを知り、僕の中で色々なことが全部繋がっていきました。
神田商会のことも事前にチェックしてくださっていたんですね!
それで実際に神田商会の本社に行くことになったんですが、来ていきなり保管されている貴重なZEMAITISのギターに触っても良いですよということになったので、もうビックリでした(笑)。すごいですよ。
昔はZEMAITIS MUSEUMというミュージアムがあって(※現在は閉館)、貴重なZEMAITISのギターをもっとたくさん飾っていたんですけどね…。
へぇ~! そのZEMAITISのコレクションは今、大阪のZEMAITIS / GRECO OSAKA SHOWROOMで展示しているんですか?
大阪のショールームにもありますが、岐阜の工場でも保管しています。工場で採寸もできますし。
なるほど…。それにしても神田商会のZEMAITIS工場のクオリティ…、この凄みを知ったら世界の人は本当に驚くだろうし、日本のミュージシャン達もびっくりすると思います。本当に、作っていただいた私のベースはすごいですよ。すごすぎます。