Interview ~ 中村梅雀【前編】

パールフロントのギターのインパクトがすご過ぎて、もう目がハートになって“これのベースが欲しい!”って思っちゃったんです

 そうなんですね(笑)。工場のスタッフも皆、喜んでいたのではないでしょうか?

 喜んでくれましたね。最初は少し顔が強張っていて、なかなかこちらを向いてくれない、みたいな感じだったんですけど(笑)。

 テレビなので緊張しちゃいますよね(笑)。こうして梅雀さん自身にお越しいただいて取材もしてくださって、本当にありがたいです!

 いや~、と言うか僕は“こんなにすごいことをしている職人さん達のところに、テレビに出てるだけの人が来ちゃって良いのか!?”みたいな感じで、すみませんっていう感じでしたよ(笑)。厚かましくもこんなところに入っちゃって、色々弄っちゃって良いのかな!?みたいなね。ディレクターが“やってみてください!”なんて言うもんだから、何でも触っちゃうし(笑)。

 (笑)。

 トップの貝殻も貼らせてもらって…。あれは緊張しましたね~。出来上がる前の自分のモデルのボディーを持ってみて“お、軽いぞ”と思いつつ、トップの装飾を見たら随分とまだ隙間があったんですけど、すごく細かい仕切りがしてあって、見たら488って書いてあったんです。“まさかこれ貝の枚数かな?”と思ったら、“トップに貝を488枚使っているんです”って言われて“えぇ~! そんなに貼らなきゃならないんだ~!”と思いましたよ。申し訳ないことを頼んじゃったなって(笑)。

 いえいえ(笑)。そういう意味ではパールフロントは一番手の掛かるモデルですね。最初にこの貝のパズルの図面を作らないとできないんですよ。貝の形も1枚1枚調節しないと合わないですし。

 1枚削って合わせて、また削って調整っていうのを往復してやっていくだけで、その1枚にすごく時間が掛かっている。下手すると、貝を1枚貼るのに10分以上掛かっちゃいますよね。それが×488枚でしょ。しかも接着剤を付けて嵌めて“あっ、ズレちゃった”ってことになったら…。実は僕、それをやっちゃったんです(笑)。

 そうだったんですか!

 実は一度付けたものを剥がしているんです。“剥がせば良いんですよ”って剥がしてもらって、“もう1回大丈夫ですよ”って。この装飾はパテ埋めするために貝の間に隙間を作らなきゃいけなくて、それを合わせるのが難しかったです。隙間を作りつつ、設計の線にも合わせないといけなくて、コンマ何ミリ単位のとんでもない作業でした。指のちょっとした動きや息遣いでフッとズレちゃうので。貝を2枚乗せるだけで、“はぁ~~!”みたいな。すごい作業をしていましたね。大変なことをやっているなぁと思いました。高いのは当たり前じゃんって(笑)。

 ありがとうございます。そうなんです…!

 ただでさえ、あんなに目の詰まったホンジュラス・マホガニーを探すのも大変ですし、それを中央で2ピースで合わせて。しかも僕がお願いしたモデルは初のコンター・ボディー。どれくらいコンターを入れるのか、というのもありますし。あばらに当たる部分のコンターと、ハイポジションの裏のコンター、表のコンター、すごいじゃないですか…!

 コンターの具合は大丈夫でしたか?

 バッチリです。

 良かったです!

 事前にワン・カッタウェイのメタルフロントのベースを弾かせてもらっていたので、それが良かったです。ワン・カッタウェイのモデルはどうしてもあばらに当たる部分があって、気になったので。ダブル・カッタウェイのB22MT DCPは抉れている部分がちょうどあばらに当たらないようになっていて、平気だったんですよね。それで、あばらに当たらないようにするにはどこにコンターを入れれば良いのか、後ろの部分のここかな?っていうのをお伝えしました。ちょうど良い具合でしたよ。それでもって、工場ではフレットを打つ前のネックも触らせてもらったんですけど、家にある60年代のベースとほぼ同じ触り心地がしたんです。びっくりしました。ネックを持った瞬間に“これジャコのベースと同じじゃないですか!”って言ったら、工場長がニコーッとしてくれました。“細くてジャコのベースと同じ! ハイポジもバッチリですよ!”って。次にヘッドを見て“すげー!”、そして裏を見て“すげー!”って、工場長の目の前で(笑)。

カッタウェイ表側のスクープ・カット
ボディー・バックにコンター加工が施されている

 きっとそこからは工場長も、自信を持って製作できたでしょうね。

 もう1本普通のネックも触らせてもらって、そちらも良かったんですけど、やっぱり僕のモデルのネックが良い! 興奮し過ぎて2つのネックがコンコン当たってた(笑)。周りがハラハラしていましたよ(笑)。いや~、製作途中のすごい時に見学させてもらいました。

 本当にナイス・タイミングでしたね!

 ナイスでした。これから気合いを入れるぞっていう、ちょうどいい時だったかもしれないです。

 やっぱりご本人がいらっしゃったら“これは良いものを作らないと…!”って、さらに気合いが入りますよね。ちょうどシグネチュア・モデルを作っている最中にベース好きなディレクターから打診があって…、神がかり的なタイミングですね。

 導かれていますよね。

 もし昨年のうちに完成していたら、工場に製作途中のシグネチュア・モデルはなかったので…。

 そうですよね。だとしたら、“ここで作っていたんですね”みたいな話になっていましたね。

 良い工場見学になったのでしたら幸いです…!

 ラストは全員でお見送りしてくれましたよ。本当に工場に入っていく時から興奮しましたね~。木材がストックしてあるところだけで、どれだけカメラを回したか…。放送には一切映っていませんでしたけど(笑)。ホンデュラス・マホガニーのところでへばり付いてずーっと回していましたよ。

 楽しんでいただけて光栄です。さて、そうして完成したBaijaku Nakamura “BJ” modelですが、完成品を手にした時はいかがでしたか? バランスは大丈夫でしたか…?

 大丈夫です! もちろん膝に乗せても良いんですけど、場合によってはストラップで前を持ち上げてやっても全然OKなんですよ。そうするとスラップも平気なので。

 ヘッド落ちも大丈夫ですよね?

 しないです、大丈夫です。完成品を受け取った時にまず“あ、バランスが取れている”って思いました。良かったです。いや~、家に持って帰ってからも何日かは、ケースを開ける度にびっくりしていました。すごいですよ、このベースが放つ光は…。

 ありがとうございます…! ところで改めてお聞きしたいのですが、シグネチュア・モデルにパールフロントを採用したのはどうしてでしょうか? そして、既存のデザインではなくオリジナルの“BJ”デザインになった経緯は?

 理由はパールフロントのベースがなかったっていうのと、あと何と言っても神田商会さんのカタログの最初の見開きに載っていたパールフロントのギターのインパクトがすご過ぎて、もう目がハートになって“これのベースが欲しい!”って思っちゃったんです。で、神田商会のスタッフの方にパールフロントのベースが作れないか相談したところ、できるという話になったんですよ。それで“だったらチェス・デザインかなぁ”なんて言っていたら、“オリジナル・デザインもできますよ”みたいな話になっていきまして(笑)、“じゃあデザインしましょう”ということになったんです。
 僕の中でオリジナルと言えば頭文字だよな、というのがまず思い浮かびまして。ZEMAITISと言えばイギリスですが、実は僕の妻の親友の旦那さんがスコットランド人で、彼はしょっちゅう仕事で海外を飛び回っていたんですけど、その彼がシンガポールに転任になった時に会いに行ったんですよ。そしたら、その時ちょうど旦那さんの両親もスコットランドから来ていて、僕の芸名の「梅雀」にすごく興味を持っていただいたんですけど、彼らは「梅雀」というのが言いにくいようで、なかなか発音できなかったんです。そうして彼らと散々飲んだ翌朝、旦那さんのお父さんから“BJと呼んで良いか”と提案されて。もちろんOKして、それからそのお父さんからはBJと呼ばれるようになりました。呼ばれるうちに僕も“BJって良いなぁ”と思うようになって。そのお父さんはすごい人で、電気工事の専門家なんですけど、なんと僕の大好きなカーデュというスコッチ・ウイスキーの蒸留所で古くなった電気配線をすべて変える工事を請け負ったそうなんです。設計も大変だし、工事も(蒸留所は)アルコールが充満していて火花1つで大爆発になるので、それは大変だったという話を当時の写真を見ながらたくさん話してくださって。彼はあまりスコッチ・ウイスキーを飲まなかったそうなんですが、その時は僕と一緒に久しぶりにめちゃくちゃ飲んだと言って、めちゃくちゃ酔っぱらってすごく喜んでくれたんですよ。そのお父さんが去年、亡くなってしまって。その時に思い出したのが“BJ”だったんです。あぁ、だったらこれから作るシグネチュア・モデルのデザインにお父さんへの弔いの気持ちも込めて、“BJ”の文字を入れるのはどうだろうかと。イギリス出身のブランドのベースだし、良いんじゃないかということで、この“BJ”の文字が入ったデザインになりました。

後編へ続く≫

◇中村梅雀

中村梅雀公式サイト
中村梅雀 公式サイト
タイトルとURLをコピーしました